イギリスのピアニスト、ハワード・シェリー(Howard Shelley 1950-)によるムツィオ・クレメンティ(Muzio Clementi 1752-1832)のソナタ全集プロジェクトの第4集。
2009年録音。
当盤の収録曲はソナタ ハ長調op.25-1、ト長調op.25-2、変ロ長調op.25-3、イ長調op.25-4、嬰へ短調op.25-5、ニ長調op.25-6、へ長調op.26、イ長調op.33-1、へ長調op.33-2、ハ長調op.33-3、変ホ長調op.41の11曲。
このシェリーによるクレメンティ・プロジェクトはすでに完遂していて、全6集からなるきわめて価値の高い全集となったと思う。
私はすでに第5集、第6集にレビューを書かせていただいているので、私の本全集の価値への言及は、そちらの記述と重複することになるが、あらためて要約すると、「ピアノ初学者のための音楽というクレメンティ作品への限定的なレッテルを拭い去り、クラヴィーアのための音楽において革命的な進歩に貢献したクレメンティの作品群に、現代ピアノのスペックを駆使し、ダイナミックにアプローチすることで、その真価を知らしめたシリーズ」ということになる。
クレメンティのソナタが、現代あまり普及していないのは、その作品の多さ、作品番号と調性だけで表記される字面が与える画一的イメージなども負の要素になっているように思う。
しかし、充実期から後期にかけての作品群は、1曲1曲に個性があり、クレメンティが吹き込んだパッションなり愛情なりが感じられ、馴染むほどに楽しめるものとなっていく。
当アルバムに収録された有名な作品としては、嬰ヘ短調 op.25-5とハ長調 op.33-3が挙げられる。
イタリアのピアニストでクレメンティ研究家でもあったピエトロ・スパダ(Pietro Spada 1935-)は華麗で大きな展開を持つop.33-3が本来は協奏曲であったとの仮説に基づき、ピアノ協奏曲譜の復元(アレンジ)を行っているので、そういった観点からこの作品を楽しむのも一興だろう。
しかし、なんといっても美しいのは、収録曲中唯一の短調の作品であるop.25-5で、モーツァルトのような無垢の悲しみを湛えた心に沁みる名品となっている。
ベートーヴェンは「クラヴィーア・ソナタ」のジャンルに限っては、クレメンティ作品をモーツァルト作品より高く評価していたとされる。
私も、シェリーのこのシリーズを通して、あらためてこれらの作品の質の高さに感銘した。
中でも第4集〜第6集に収められた中〜後期の作品の充実ぶりは素晴らしい。
このシェリーのシリーズは、作品自体のステイタスを、本来の相応しい地位に向かって引き上げてくれるような、価値の高いものだと思う。
比較的短期間の間に質・量ともに優れた本シリーズを完遂したシェリーと関係者の尽力には、頭が下がる。
それにしても、シェリーのピアノは立派だ。
ピアニスティックなニュアンスが巧みなだけでなく、十分な技巧を背景としたダイナミクスの追及も圧巻で、聴いていて実に自然で耳触りがよく、しかも美しい。
滋味と迫力にことかかない見事な全集の完成を歓迎したい。
2009年録音。
当盤の収録曲はソナタ ハ長調op.25-1、ト長調op.25-2、変ロ長調op.25-3、イ長調op.25-4、嬰へ短調op.25-5、ニ長調op.25-6、へ長調op.26、イ長調op.33-1、へ長調op.33-2、ハ長調op.33-3、変ホ長調op.41の11曲。
このシェリーによるクレメンティ・プロジェクトはすでに完遂していて、全6集からなるきわめて価値の高い全集となったと思う。
私はすでに第5集、第6集にレビューを書かせていただいているので、私の本全集の価値への言及は、そちらの記述と重複することになるが、あらためて要約すると、「ピアノ初学者のための音楽というクレメンティ作品への限定的なレッテルを拭い去り、クラヴィーアのための音楽において革命的な進歩に貢献したクレメンティの作品群に、現代ピアノのスペックを駆使し、ダイナミックにアプローチすることで、その真価を知らしめたシリーズ」ということになる。
クレメンティのソナタが、現代あまり普及していないのは、その作品の多さ、作品番号と調性だけで表記される字面が与える画一的イメージなども負の要素になっているように思う。
しかし、充実期から後期にかけての作品群は、1曲1曲に個性があり、クレメンティが吹き込んだパッションなり愛情なりが感じられ、馴染むほどに楽しめるものとなっていく。
当アルバムに収録された有名な作品としては、嬰ヘ短調 op.25-5とハ長調 op.33-3が挙げられる。
イタリアのピアニストでクレメンティ研究家でもあったピエトロ・スパダ(Pietro Spada 1935-)は華麗で大きな展開を持つop.33-3が本来は協奏曲であったとの仮説に基づき、ピアノ協奏曲譜の復元(アレンジ)を行っているので、そういった観点からこの作品を楽しむのも一興だろう。
しかし、なんといっても美しいのは、収録曲中唯一の短調の作品であるop.25-5で、モーツァルトのような無垢の悲しみを湛えた心に沁みる名品となっている。
ベートーヴェンは「クラヴィーア・ソナタ」のジャンルに限っては、クレメンティ作品をモーツァルト作品より高く評価していたとされる。
私も、シェリーのこのシリーズを通して、あらためてこれらの作品の質の高さに感銘した。
中でも第4集〜第6集に収められた中〜後期の作品の充実ぶりは素晴らしい。
このシェリーのシリーズは、作品自体のステイタスを、本来の相応しい地位に向かって引き上げてくれるような、価値の高いものだと思う。
比較的短期間の間に質・量ともに優れた本シリーズを完遂したシェリーと関係者の尽力には、頭が下がる。
それにしても、シェリーのピアノは立派だ。
ピアニスティックなニュアンスが巧みなだけでなく、十分な技巧を背景としたダイナミクスの追及も圧巻で、聴いていて実に自然で耳触りがよく、しかも美しい。
滋味と迫力にことかかない見事な全集の完成を歓迎したい。