マクロ経営学から見た太平洋戦争 (PHP新書) (新書)

 原書は文藝春秋刊『魔性の歴史』(後文春文庫、光人社文庫)の再々版。

新書化に当たり副題を書名としている。

昨今の新書の乱発で『金融行政の敗因』西村吉正(文春新書)のような素人でも組まないような行間余白の体裁となった中身は良書であるはずの手抜き新書が目立ってきたが、本書も体裁上読み辛くユーズドで買う方がいいかもしれない。

 さて、マクロ経営学とあるが、先の大戦の敗因分析を激烈な言葉で表現している。

例えば、「悪魔の駅伝競走」、「中国という強烈な北方の磁場に吸引されていた」、「自らの手で自らの足に重い鎖をはめながら恐るべき巨人(米国)と戦った」、「中国は帝国主義列強の利権をめぐる闘鶏場」、「太平洋の海底を墓場とする地獄の消耗戦」・・・等々。

数字を上げただけではぴんと来ない、よく理解できない事象をこれほど簡潔で巧みな表現で説明して初めて、呆然とさせられる他ない事どもを初めて的確に理解できるということではないだろうか。

 対中関係を改善せねばならない状況で軸足を南に移さぬ儘尊大にも対中要求のみに固執した陸軍、物資確保の商船・護衛船の配分計画を欠いたまま戦艦主義に奔って自滅した海軍、その陸海軍の単なる横暴と軋轢。

空は空で標準化による品質管理も徹底せず量産もままならぬまま続けられた奇襲戦法。

 平和な現代には辛辣に聞こえる著者の冷厳な言葉には、あたかもこうすれば日本にも勝ち目はあったかもしれないという含意があるようにみえるかもしれないが、そんな愚劣な軍人指導者達が勝利を勝ち取る可能性もあったということの方が、私にはむしろ空恐ろしいことのように思える。

 戦争という非常事態は始まり、そして必ず終わる。

しかし、その有限に違いない多くの悲惨の数々は戦争以前に既に始まっていたと考えるべきだろう。