悪党の裔〈上〉 (中公文庫) (文庫)

子供の頃から、蒙古襲来から日本を守ってくれた鎌倉幕府の陥落は大変に悲しい展開だという思いがある。

「コイツら、寄ってたかって鎌倉幕府に襲いかかりやがって」と子供心に腹を立て、南北朝のしっちゃかめっちゃかとか守護大名をまとめ切れない室町幕府の脆弱さに「わーい、バチが当たった」やら思っていた。

しかし何百年もかけて磨き抜かれた戦記物は楽しい。

本書を読むと、南北朝動乱までの経緯がすっかり分かっちゃったような錯覚に陥る。

千早城に籠城するは楠木正成、京を攪乱するは赤松円心。

ともに「悪党」と呼ばれる体制外の存在。

しかし武士の力なくして討幕ならずとも知っていた赤松円心は、武家の棟梁(尊氏)の決断を待っていた。

そして、尊氏がついに立つ。

討幕成就の後、建武の新政がグダグダになる中、宮方と武家方の思惑の対立が鮮明化し、楠木正成は宮方に、赤松円心は武家方に分かれていく。

反朝廷を反新田義貞にすり替えて兵を動かした尊氏だが、北畠顕家の軍勢に圧されて敗走する。

そんな中で、赤松円心は尊氏に運命の入れ知恵をするのだった。

持明院という皇統がある。

光厳上皇から院宣を受けなさい、と。

北朝誕生である。

尊氏を西に逃がすべく、赤松円心は新田軍を引き寄せて白旗城に籠る。

かつて千早城籠城を敢行した楠木正成のように。

天下を変える為に。

いやー、誰も彼も言うことやることカッコよくて爽快な世界だ。

臭いっちゃ臭いが、臭いというのは決まれば最強。

北方先生は最強だ。

これに続いて『道誉なり』を読んだらば、おお、キャラがダブる、と感じたが、カッコイイというのは型の美しさでもあるので、無個性なのだ。

以前どっかの作家が「太平記のキャラは無個性だ」と言うのを読んだことがあるが、個性ごときなんぼのもんじゃい。

ビバ・無個性。

ちなみに北方太平記シリーズで尊氏ファンというのは少数派なのかしらん。

シリーズを通して、唯一、たまに鬱になっているキャラがこの人だ。

北方先生の描き方だと、一番不本意な人生を生きたのが尊氏のようにも取れる。

私は彼が一番面白いと感じるが。