WALKABOUT 美しき冒険旅行 [DVD] (DVD)

映画を観る喜びというのは、はっとするような「瞬間」との出逢い、とも言える。

映画は脚本が最も大事、というストーリー至上主義の方もいるが、筆者は「思いもしなかった」風景やシーン、映像と出逢った時、心の底から映画を観た幸せを感じる人間である。

『美しき冒険旅行』は、そうした奇蹟のようないくつもの瞬間をフィルムに封じ込めた、自分にとってとても大切な作品のひとつである。

本作はニコラス・ローグの本格的な長編監督デビュー作。

この作品では撮影監督もつとめ、徹底したこだわりで創られている。

オーストラリアの原野に迷い込んだ14歳の姉(ジェニー・アガター)と6歳の弟(ローグの息子、リュシアン・ジョン)。

荒野をさまよううちに、通過儀礼「ウォークアバウト」の旅の最中のアボリジニの少年(デヴィッド・ガルピリル)と出会い、荒々しくも美しい自然の中を共に旅する・・・。

この映画は文明(白人の姉弟)と自然(アボリジニの少年)の出会いと対比が描かれた作品である。

特に本作はローグの長編デビュー作なので、多少気負ったところも感じられ、実験精神旺盛なカメラワークや編集テクニックが横溢する作品でもある。

その一種のアート性も高く評価された作品だが、今回見直してみて感じたのは、もう少しプリミティヴな創りであってもよかったのでは?と思うぐらい先鋭的である。

とにかく、何につけても、カットバックによる「文明」「自然」の対比がしつこいぐらい展開する(笑)。

例えば、少女が弟と木登りを楽しそうにするシーンでは、一方で荒野の真ん中に棄てられた自動車にアボリジニたちが群がる映像とひたすらカットバック。

片や「自然」を発見し、片や「文明」を発見し・・・判るんだけれども、木登りするジェニー・アガターの笑顔があんまり素敵で、もっとそっちを観ていたいのが筆者の本音であった(苦笑)。

しかし、本当に映像が美しい。

オーストラリアの大自然を見事に捉えたローグの撮影。

自然の中で開放された少女(アガター)の表情や姿・・・前記の木登りのシーンや、パッケージにもなっている全裸での水浴シーン。

きらめく陽光と、ひたすら透明な深い水の中にたゆたうその姿は、もう言葉では表現不可能。

いま、この刻を逃したら二度と訪れない瞬間・・・観客は、この映画の奇蹟に立ち会う喜びにため息をつくしかない。

ローグの映画の特徴に、異郷で出会った男と女の「性」と「死」を巡る妄執・・・決して理解しあえない苦悩、がある。

そして本作では、「文明」と「自然」の出会いと、やがて訪れる衝突が、白人の少女とアボリジニの少年の間でも描かれる。

大人の物語ならいざ知らず、少女と少年の間でこうしたテーマが描かれるのは、観ていて本当につらい。

自然の中で一時、性を開放しかけたかに見えた少女はやがて野生を拒絶し、再び文明社会に戻っていってしまう・・・この映画の結末は、とても悲しい。

この映画は、ジェニー・アガターにとっても特別な思い出となっているようである。

「私の『美しき冒険旅行』との思い出は、思春期から大人への移行期にさしかかっていた当時の私自身と似た、“あの少女”の旅とつながっています。

ニコラス・ローグは真剣で情熱的、私は何か重要なものの一部になるのだと気づきました。

草原を吹き抜ける風のささやき、さらさら音をたてて岩場を走るトカゲ。

ひっそりと静まり返った荒野では、かすかな音が拡張して聴こえます。

ジョン・バリーの音楽は、過ぎ去ってしまった子供時代への思慕を呼び起こします」 ― ジェニー・アガター