俘虜記 (新潮文庫) (文庫)

もうすぐ来る8月が敗戦の月であることを意識して本書を読んだ。

 本書の白眉は著者が自分で自分に「お前は今でも俘虜ではないか」と問いかける一文だ。

本作は 舞台設定こそ 俘虜収容所だ。

しかし戦後六十余年を過ぎた二十一世紀の現在に読んでいて迫ってくるものは本作に描かれる人間の姿が少しも古臭くない点にある。

いや読んでいて自分の周囲と自分自身の姿が喝破されている気がして いささか苦しい思いすら感じた。

 本作は帰国直前で筆が置かれている。

帰国後の著者は描かれていない。

但し 本作を書いているのは 「帰国後の」著者であり その彼自身が「お前は今でも俘虜ではないか」と書いた点が重い。

本作は戦争を描いたものではない。

戦争は 書いた材料に過ぎない。

書いた事は徹底して「人間とはどういうものか」に尽きる。

その厳しい目は書いている著者自身にも突き刺さっている。

自分を突き刺す文体が このように冷静で淡々としているのも初めて見た。