マーラー:交響曲第5番 (CD)

第1番で鮮烈なスタートを切ったアシュケナージ指揮シドニー交響楽団によるマーラー・チクルス。ほとんど間を空けずに第5番の登場となった。こちらも第1番と同じくマーラー生誕150周年に当たる2010年の録音・リリース。ライヴ音源に一部スタジオ録音したものを併せている。エディットのレベルは高く、編集点などはまったくわからない。一聴して前作の第1番と同様に瑞々しく清冽な音響が広がる。同じコンビによるエルガーではやや鋭い金管の響きが聴かれたが、このマーラーでは洗練の度合いがまた一段と高くなっており、音色はより的確に融合し、しかし互いに主張と存在感をしたたかに示している。立体的な音色は心地よい広がりをキープしていて、高い頂から平野を見下ろすような壮観さがあるとともに、吹き抜ける風を感じるような爽快さがある。第1楽章冒頭のトランペットはアシュケナージらしい柔らかいトーンであるが、芯のあるきちんと鳴り切った響きになっている。続く管弦楽の合奏も濁りのない美しい音色で、無理のないテンポ設定で、適度に速く、しかし快適に鳴るサウンドが好ましい。第2楽章は激しさを強調せず、第1楽章で作られた品位ある雰囲気を踏襲し、しかしダイナミックな起伏があり表情付けも的確に決まる。時として小さく踏み込んでくるところもあるが、常に高い視点でのリミッタが働いていて、音楽の外面はことのほか美しい起伏で覆われている。第3楽章は歌に満ちた楽しい音楽で、この楽章を聴いて「もっと聴いていたい」と思わせてくれる数少ない演奏の一つ。近年ではジンマン以来の出来栄えと言っていい。第4楽章はヒューマンで暖かい。クライマックスでも激情を吐露するようなものではなく、明るい色彩感に溢れている。この楽章を用いた高名な映画としてヴィスコンティの「ベニスに死す」があるが、おそらく地中海性気候のベニスの夕刻は、このアダージョのような雰囲気に包まれているのではないかな・・・と思わせるような演奏だ。終楽章は下手に騒がしくなると聴きにくいところもあるが、アシュケナージはさすがに音の強弱の範囲をコントロールしていて、美音の連続となる。それでいて内省的な音楽の含みも良く伝わってくるのはオーケストラとこの指揮者の信頼関係のなせる技に違いない。総じて、これまた第1番に引き続いて素晴らしい出来栄え。今後「大地の歌」「交響曲第8番」などもリリースされるという。これまで声楽を含む作品でも優れた演奏を披露してきたアシュケナージだけに、今後の展開にも期待が込められる。