「アルゴリズムがカバーする領域は、日々拡大している。様々な業界において、人間がやっていた仕事をアルゴリズムが取って代わるようになった。アルゴリズムはとてもうまくやってのける。彼らは我々人間よりもスピードが速く、しかもコストは安い。そして物事があるべき状態でまわっているときは、我々よりはるかにミスが少ない。しかしアルゴリズムが力と独立性を持つようになると、予想もしなかったことが起きる場合がある」。今や、金融市場取引の60%は、人によるリアルタイム監視が無いままコンピュータが自動で行っているという。バッハの作曲技法を研究し尽くして、ランチの間に合唱曲を5000曲自動で作曲してしまうプログラムが既に作られている。過去のヒット曲のパターンを徹底分析して有望な曲を自動的に発見できるアルゴリズムも開発されている。電話してくる人の話し方を分析してその人のタイプを判断して適したオペレータにつなぐことができる。他にも、医療、テロ対策、お見合い、野球、外交、チェス、賭け、営業、ソーシャルネットワーク。近年のアルゴリズム開発の進展と活用及びその背景にあるコンピュータの処理能力の劇的な向上によって、プログラムが自動で判断を下せる領域は次々拡がっている。そのような動きを、アメリカを中心とした興味深い事例や先駆者たちの取材を交えながら紹介した本である。中にはこれまであまりインタビューに応じてこなかった人もいる。特に、金融分野のアルゴリズムトレーディングの変遷と発展については、かなり詳しく書かれている。アルゴリズムに依存した社会は、思わぬリスクも抱える。ちょっとした欠陥から株式市場が大混乱に陥ったり、ネット上で売りに出されている何の変哲も無い商品に突然高値がついたりする。金融工学を駆使しスピードを争った「ウォール街の軍拡競争」は、2008年の金融危機で一旦沈静化する。しかし、もうこの流れが逆戻りすることはなさそうだ。実際、2008年の金融危機は、それまで魅力的な報酬で金融機関に大量採用されてきた理数系の優秀な頭脳たちにとっては転機になったようで、優れたアルゴリズムを生み出すことができる才能達が金融以外の異業種に次々進出するようになり、アルゴリズムの多分野における活用のすそ野の広がりを後押しすることになった。従来あまりに非合理で人間的で自動処理のロジックにはなじまないと思われていたような分野でさえも、いまや人間だけの聖域ではなくなりつつある状況が出現しつつあることに驚かされる。利用する側に立てば、さまざまな点で利便性が高まる一方で、機械によってホワイトカラーの職が奪われるということがSFの世界のことではなくなりつつある。当然、優れたアルゴリズムを生み出せるスキルを持ったエンジニアは、当面引く手あまたになることが予想されている。一方で著者は、過度にアルゴリズム依存が進んだ社会に対する警鐘を鳴らしてもいる。この流れがさらに進んだ未来の世界は一体どのようになるのだろうかと、考えずにはいられない。なかなか面白い本だった。