「『現代の総力戦』の本質は、さまざまなテクニックを使いながら、最終的には『自分たちの方が敵よりも倫理的に勝っている』ということをいかに世界に説得するかという勝負である」「日本のイメージの基本レベルを上げておくことが、日本にとってぜひ耳を傾けて欲しい、と思う何かが起きた時、決定的な違いを生むことになるだろう」。メディアを用いた国際情報戦について解説した本。著者はNHKのディレクターとして多くの番組を手掛けてきた経験を持つ。実際にメディア戦略をコントロールしている中心人物に取材したボスニア紛争、アメリカ大統領選挙、ビンラディンのメディアの活用、アメリカの対テロ戦争におけるメディアの利用、2020年五輪招致の具体例などを紹介している。今や「情報戦」とは、必ずしもCIAやMI5などが秘密情報を求めて水面下で暗躍するものだけを指すとはいえなくなっている。むしろ、メディアを通じて情報を少しでも多くの人の目と耳に届け、その心をどれだけ揺り動かすことができるかが勝負になってきている。情報を隠すのではなく、効果的に伝える方法を考えて工夫を凝らし、国際メディアを動かして自らの正当性を効果的にアピールすることで国際世論を味方につける。自らそれを行うことが難しければ、欧米の有能なPRのプロを雇う。ポイントとなるのは、「サウンドバイ」「バズワード」「サダマイズ」。ジャーナリストたちとの友好関係を良好に保つために、普段から入念な気遣いをすることも怠らない。敵の致命的な部分を積極的に拡大再生産してダメージを与えることも行われる。「テレビを通じての情報発信は、誤解を恐れずに言えば受け手の直感にどう訴えるかが勝負だ。理屈ではない」という指摘もある。しかし、そこには報道におけるルールや自由や信頼に基づく一定のルールがある。いくらかの誇張や発言の切り取りは許されても、「報道の自由」や「経営と編集の分離」といったジャーナリズムの理念の原則は欧米では信奉されており、意図的な情報操作や報道への制限は反発や疑念を招いてうまくいかないし、対応を誤るとかえって深刻な事態を生みかねない。終盤で著者は、このような国際メディア戦渦巻く世界において日本が取るべき基本戦略についても意見を述べている。歴史というのは本来いろいろな解釈があるものの、残念ながら日本にとって第2次大戦で枢軸国側であったことがハンディになることが現実問題としていまだにあるため、「民主主義、基本的人権の尊重、人道主義、表現や報道、思想や信教の自由、社会のあらゆる面での透明性の重視、差別との訣別といった価値観を、国際社会の主要な潮流と共有していることをアピールすること」が重要で、少なくとも、国際メディア情報戦でもっとも大切にされているのはこのような現代的な価値観の共有と共感になっている、ということだ。