決着! 恐竜絶滅論争 (岩波科学ライブラリー) (単行本(ソフトカバー))

K/Pg境界。

6550万年前にユカタン半島での巨大隕石衝突によって生じた地球規模の恐竜大絶滅のタイミングを示す跡である。

恐竜以外の生物や被子植物をはじめとする多くの植物にも多大な被害が及んだ。

本書は、2010年に世界の科学者41人がサイエンス誌に投稿した論文の内容とそれに至った経緯について説明した本である。

著者はこの論文に名を連ねた41人の中でもっとも若い科学者。

巨大隕石の衝突は地球規模で太陽光の遮断をもたらし、海洋の植物プランクトンが絶滅した。

これによって、光合成植物に頼る食物連鎖に属する生物の絶滅が起きた。

ただし、腐敗連鎖の生物の中には絶滅から逃れるものもいた。

陸上においても光合成植物が死滅したことが多くの種の絶滅の原因になった。

1980年6月6日に発表された論文から始まったこの説は、その後、多くの科学者によって検証され、次々と科学的な証拠が見つかっている。

しかし、この説に反対を唱える科学者達も今ではごく少数にはなったが存在する。

反証による仮説の検証自体はバランスのとれた正常なプロセスだともいえるが、火山噴火説を中心とするそれらの反対仮説にはかなりの無理があり、実際はそのような説を支持する科学者は今ではほとんど居なくなってきている。

しかし、近年マスコミによって隕石衝突説が間違いだという記事が興味本位で取り上げられることが各国でひんぱんにあったことから、「きちんと説明した方がいい」という声が上がるようになり、著者が加わった2010年の論文発表はそのような流れから生まれたようだ。

薄い本だが、1980年以降の顕著な研究成果を紹介して、K/Pg境界で発生したことを根拠を添えて丁寧に説明してあり、これを読むと、鳥類を除く恐竜絶滅は巨大隕石衝突が原因であったことはもう間違いがないといえるだけの確証がそろっているのだな、ということがわかる。

また、この科学者同士の論争が、極めて人間的で感情的な対立を伴っていたこともうかがえた。