フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか (新潮新書) (単行本)

タイトルから予想した以上の傑作であった。

恐らく、編集者が、売れ筋を目指して付けたタイトルかと想像されるが、実際の内容は、もっと幅広く、深い。

前半は、神童としてのリスト。

また、元祖アイドルともいうべきモテ男のリストが描かれる。

当時のサロンの雰囲気や、ピアノという楽器の発展の模様など、時代背景を巧みに絡ませながら、リストの人生が、生き生きと描かれていく。

最初から最後まで、ぐいぐいと読ませる文章力の高さも、この著書の魅力である。

特に、私が引き込まれていったのは、むしろ後半の部分である。

同時代に生きた、一方の天才であるショパンや、ワーグナーとの関係を、史実や書簡などを交えつつ浮き彫りにしていく。

さらに、数知れぬ弟子を持ちながら、年間2000通もの手紙を書いていたエピソードなども伝えられる。

リストが、ピアノの天才のみに止まらず、底知れぬエネルギーに満ちた偉大な人物であったことが、明らかになっていく。

もう一方では、ヨーロッパ中を渡り歩いて来たリストが、祖国というべき国を持たず、多くの無理解に苦しんだことが綴られた手紙なども紹介されている。

ノルウェーの作曲家・グリーグが語ったリストとの出会いの言葉が、リストの偉大さをよく表現している。

「わたしは、彼に会って、ピアニストとしての彼の比類なき独創性を知り学んだだけでなく、それ以上に、芸術の域を超えたところの精神の偉大さを、目の当たりにした」ご多分に漏れず、ショパンが大好きで、リストをよく知らなかった私だが、この書を通して、一気にリストという人物が大好きになった。