満州裏史 甘粕正彦と岸信介が背負ったもの (講談社文庫) (文庫)

大杉事件(関東大震災[1923年9月1日]の直後の1923年9月16日、アナキストの大杉栄・伊藤野枝とその甥の3名が憲兵大尉・甘粕正彦らによって憲兵隊に強制連行・殺害された事件)の首謀者と目されていた甘粕正彦。

しかし現在、彼が本当に手を下したのかは確証がないということになっているらしい。

憲兵あるいは陸軍の上層部に犯人がいて、甘粕は罪をかぶったかのように、この本には書いてあった。

事件の真相は迷宮入りということだ。

その甘粕が3年の服役後、ヨーロッパにわたり、満州事変の頃からそこで、溥儀を皇帝にすえたり、満州国そのものの建国に、関東軍とは別の役割を果たし、暗躍した。

リットン調査団に対しては日本側に調査結果が有利になるように画策し、またアヘンの売買で莫大な資金を稼ぎ、満映会社を主導して国策的な映画の普及に努めた。

一方、長州人で秀才の誉れのたかかった岸信介は帝大を卒業後、政治家の道を歩み、独自の統制経済論で満州を産業国家にしたてるべく貢献した。

豊満ダム、水力発電、撫順炭鉱、鞍山製鉄所、昭和製鋼所、等々。

この二人の人物象とその行動を描きながら、満州国の成立と消滅の歴史の舞台が展開される。

難点をひとつ。

彼らを「強き本物の日本人」と讃えたり、謀略活動に何かしらのロマンチシズムを感じたりしている、著者のナルシズム的感情の吐露は、愉快でなかった。