町を歩いて映画のなかへ (1982年) (単行本)

川本三郎氏は、町の散歩の達人で、かつ映画へ温かい眼差しを向ける映画評論家である。本書は私の記憶では、著者の散歩と映画という2本柱を絶妙に溶け合わせた最初の本だ。東海道映画館道中、道北の遅い春、女優の自伝、ラナ・ターナー、ヒポクラテス、地獄の黙示録、マンハッタン、といった章からなるが、何といっても地方都市を散歩してふらりと町の映画館に入り、映画を楽しむ漫歩録の部分が大好きだ。本書を読んでから25年以上になるが、こういう気ままな旅をするのが私の夢である。しかし、本書発刊から四半世紀が経過して、シネコン、ヴィデオ、DVD、映画専門のTVチャンネル、そしてインターネットが登場し、映画は映画館(シネコンを除く)でしか観られないものではなくなり、町の裏通りから映画館は次々に姿を消した。もう本書のようにふらりと個性的な映画館に立ち寄る旅はほとんど不可能になってしまったのだろう。本書が復刊されない理由もそのあたりにあるのでは。とすれば貴重な映画館巡りの旅の記録としていつまでも大事にしたい、そういう本だ。