生前、仕事、プライベート面でも親交が深かった故久世光彦が手掛けたドラマ。脚本が大石静で、向田邦子の秘めた恋=不倫関係を主に描かれていても、どこか明るくカラッとしていてジメジメしていないのは、主演の山口智子のキャラクターによるものなのかもしれません。樹木希林が、狂言回し的な役どころで、なんとなく懐かしのドラマ『寺内貫太郎一家』を彷彿させます。向田邦子の父役が岸辺一徳、母が藤村志保で、夫(岸部一徳)の浮気を察していながら「臭いモノには蓋」「見ざる言わざる聞かざる」「言わぬが花」「女は言ったら負け」を通す妻(藤村志保)が、深夜、布団に横たわりながら隣の布団で眠る夫の寝顔を見る表情は秀逸だと思いました。向田邦子が妻子ある男性を、若い頃から愛し、その男性が半身不随になってから、かいがいしく世話をして通う姿が健気でいじらしく可愛く思えたのが不思議です。本来、社会的通念に照らし合わせたら、他人の夫を奪った女、もっとドロドロとしたシーンを予測していましたが、なぜか軽やかで清々しい関係に思えました。二人の情交のシーンはなく、二人が体を触れ合うのは、向田邦子が不自由になった男の膝の上に頭を乗せて甘えて会話するシーンぐらい。二人の会話は少なくても互に尊敬の念と深い思いやり、愛情に満ちた関係だったことが想像される日記のモノローグ。友達、恋人言葉ではない日記文は、たとえ不倫であっても真摯な関係、対等な関係だったことが想像されました。懐かしい昭和の香りのする茶の間、台所の備品、家電品、正月の習慣と料理、父親が威張っていた時代があったころを思い出します。父親(岸部一徳)の浮気相手が、母とは正反対で美人でもなく、だらしがない女(岸本加代子)だった驚き。妻子には決して見せない「だらしがない男の姿」「男の本能」「息抜きしたい時に選ぶ女=妻とは真逆の女」を、娘達が見てしまうシーンは、『阿修羅のごとく』を思い出しましたが、やはり演出等、全てにおいてこのドラマは完敗しています。かつて放送された名作ドラマ『あ・うん』『阿修羅のごとく』等とは全く別物として楽しむ分には問題ないでしょう。向田邦子の家庭像、不倫相手の男性との関係、当時の向田邦子の生活を知るには良いドラマかもしれません。お互いに不倫している父と娘が、互いの秘密の共有、共感、後ろめたい感情とどうにもならない人間の業を理解し合う、傷をなめ合うような喫茶店での対話のシーンは、フィクションだとしても良いシーンだな、と思いました。