クラシックのCDは大抵1人の作曲家の1曲以上を収録しており、それはそれでいいのだが、本作のように、バッハからラヴェル、ドビュッシーまで、型にはめられることなく演奏家がプレイしたい曲を自由に配列する作品には、その並べ方自体にも演奏家の個性・配慮が表れ、とても興味深い。本作はまさにその典型的な作品。さらにジャズ・ピアノ・トリオでの演奏、自作や自ら編曲した曲も混ぜられ、グルダが演奏する楽器もピアノだけでなく、クラヴィコード、アルト&バス・ブロックフレーテにまで及び、さらにはゴロヴィンの名で歌まで披露し、変装してゴロヴィンの写真までブックレットにのせる。まさに才人グルダの面目躍如と言っていいだろう。こんなに楽しいクラシック・ピアニストによる音楽玉手箱は私には寡聞にして他に思いつかない。中にはあまり成功しているとは言い難い曲・演奏もあるが、クラシックの正統的な演奏はどれも光輝くような名演ばかり。特にラヴェル、ドビュッシー、バッハそしてベートーヴェンの曲が素晴らしい。中でもディスク3のベートーヴェンのピアノ・ソナタ第31番は、この曲の、グルダ以外の演奏者も含めて数多ある演奏の中で、私が最も好きなものだ。この曲の後にバッハの平均率クラヴィーア曲集第1巻からプレリュードとフーガ変イ長調BWV862が続きこの大作を締めくくる、この流れがたまらなく魅力的です。私は5枚組LPの時代から時間があって気が向いたときに好きな曲をつまみ聴きしていますが、グルダならそういう聴き方も許してくれるでしょう。グルダの作品でベストは何かと尋ねられれば、私は躊躇なく本作を推薦します。