実践ガイド 医療改革をどう実現すべきか (単行本)

 各国の医療制度は、国民性や歴史的・政治的経緯に基づいた複雑な社会経済的存在である。

従ってその改革は非常に困難で政治的にも大きなリスクが伴う。

 本書の特徴は次の3点である。

1)医療改革の解決策(ソリューション)ではなく、解決の過程(プロセス)を述べていること、2)医療改革のプロセスとしては6段階からなる政策サイクル(問題定義、診断、政策立案、政治決定、実施、評価)、および具体的な政策デザインのツールとして5つのコントローラー(財政、支払い、組織、規制、行動)を提案していること、3)医療改革においては倫理思想への深い理解が不可欠であると主張していること。

 このため、本書は発展途上国から先進国までの医療改革を理解し、それに取組むための極めて実践的な内容となっている。

本書を読めば、近年の日本の医療改革の失敗(例えば後期高齢者医療制度)の理由がよく分かり、また適切なプロセスを踏めば医療改革を成功させることは可能である(例えば、イギリスにおける近年のNHS改革)と実感させてくれる。

本書は実践的かつバランスが良く取れているという点で、医療改革におけるトップクラスの良書といえる。

 マーク・ロバーツら本書の著者たちはいずれもハーバード大学公衆衛生大学院の教授陣である。

著者たちの倫理思想上の立場は「社会的弱者にも配慮した公平な医療制度の推進」である。

  本書を、昨年翻訳が出版されたマイケル・ポーター「医療戦略の本質」(日経BP社)と対比すると特徴が際立つ。

 ポーターの主張は、「医療の質を競争原理にすれば医療の問題はすべて解決する」という、典型的な「ソリューション志向」である。

周知の通り、ポーターはハーバード大学ビジネススクールに所属する経営学の「大御所」である。

 同じ大学で、一方は「プロセス志向」、他方は「ソリューション志向」という全く違う立場で、医療改革に関する大著が出たことは非常に面白く、是非両者を読み比べることをお奨めしたい。

ちなみにロバーツらは、ポーターを名指しこそしていないが、ソリューション志向のアプローチに対して、短絡的で実践的でないとして批判的である。